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ブッシュ大統領、最後の一般教書演説

1月28日、ブッシュ米大統領は議会に招かれ、恒例の新年の一般教書演説を行った。

今回の演説の外交部分では、北朝鮮問題には一言も触れない一方で、イラク関係に大きな時間が割かれ、過去1年間のイラク情勢の進展が強調された。 ブッシュ大統領は、1年前には改善が見込めると考えた者はほとんどいなかったが、現在では治安分野を中心に顕著な改善が見られ、カーイダは「敗走」に追い込まれていると強調した。もしかするとブッシュ大統領自身、昨年の一般教書演説の際には、イラク戦争と戦後統治の失敗を問われて四面楚歌の状態にあり、掃討作戦のための増派を発表しながらも、改善を予測できなかったのかもしれない。しかし、掃討作戦実施地域(バグダード市および中部スンニー派地域)における死傷者の減少と、シーア派の民兵組織サドル勢力の一方的停戦による首都とシーア派地域における死者数の激減は、おそらく期待以上の成果をもたらしたはずである。ブッシュ大統領が強調したスンニー派地域における覚醒評議会(Awakening Council)の治安活動も、限定的ながら、一定の効果をあげた。

その一方でブッシュ大統領は、これらの進展はいまだ完全ではなく、「なお困難な戦い」が待ち受けているとして、かつて発表した以上の米軍の削減や今後の撤退に向けた道筋を示さなかった。確かに、月に2500人以上が死亡していた時期と比較すれば、治安の改善は著しい。しかし、現在でも700名以上が毎月犠牲になっており、これは外国人が大挙してイラクからいなくなった2005年のレベルとほぼ同じである。また、ブッシュ大統領自身強調している通り、「困難な戦い」は単なる武力による掃討作戦の継続ではなく、イラク政府による努力の必要を強調している。

今回の演説の背景には、以下のような思惑があるように思える。

第一に、大統領には、この一年間のイラクにおける成果を強調しなければならない理由が存在した。イラクにおける米国の政策の誤りは、イラク情勢の改善もしくは撤退をもってしかぬぐえない。米政権が死に体化する中でブッシュ大統領は、テロとの戦いに勝利した偉大な大統領として引退することを強く希望しているが、イラクにおける混迷は、ブッシュ政権に対する強い不信感を植えつけてきた。世界とイラク、アフガニスタンを混乱に追い込んだ大統領としてではなく、テロとの戦いを通じて米国と世界を安定に導いた「偉大なる大統領」となりたいブッシュ大統領にとり、イラク情勢の好転を強調することは極めて重要であったと言えよう。

ブッシュ大統領は、昨年中ごろより、北朝鮮、中東和平およびイラク問題に外交を集中させてきたようである。北朝鮮および中東和平に思い通りの進展が見られず得点をあげられない中、おそらく「ダメージ・コントロール」の対象として考えていたイラクにおいて「思わぬ進展」があったというのが本音かもしれないが、いずれにせよ、アピールできる外交的材料が乏しい中で、イラクでの改善を自らの成果として強く打ち出す策を選択したのであろう。

現在の米国民の関心の中心は大統領選挙にあろうが、大統領予備選においてイラク情勢の改善はブッシュ政権を積極的に肯定するものになっていない。イラク情勢の改善と共にイラク問題は大統領選挙のイシューから後退した。しかし、民主党候補はもとより、共和党候補ですら、ブッシュ大統領とは距離を置いている。一般教書の最後にブッシュ大統領が「自由の力に自信を持って」と添えたのは、ブッシュ大統領の心境を微妙に反映しているようだ。

第二に、ブッシュ大統領は困難な戦いの継続とさらなる進展を強調する必要があった。そもそも一般教書演説は米議会向けであり、予算の継続的獲得と議会の支援を得る必要がある。つまり、撤退を表明できない以上、予算の獲得に向けた理由づけも当然必要である。また、サドル勢力の予期せぬ停戦もあったが、現在の一定の状況の改善をイラク情勢の安定に結び付けるためには、政治・経済といった民生分野の安定とそれをもたらす中央政府の安定と信頼獲得が必須である。しかしながら、これらには目途が立たずにいる。つまり、議会対策として戦いの継続を強調するのみならず、完全な勝利を謳う状況にもないのである。それゆえ、継続的な戦いを強調しながらも、米軍の撤退等について将来への展望を明確に述べることができなかったと言えよう。

外交音痴と言われ続けたブッシュ大統領ではあるが、「悪の枢軸」、「米軍増派」と一般教書演説においては外交分野での表明が耳目を集めてきた。今回の「カーイダ敗走とイラク情勢の改善」は説得力のあるものとなり、ブッシュを偉大なる大統領に押し上げることに貢献するのであろうか。

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