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サッダームの亡霊?

新年明けましておめでとうございます。

 昨年末の30日は、サッダーム・フセインが処刑されてちょうど1年となった。懸念されていた処刑日に合わせた大規模テロは発生せず、サッダーム・フセインの墓および彼の墓に隣接する二人の息子、ウダイとクサイの墓を訪れる人々が制限されたり、ヨルダンで親サッダームのデモが発生する等の若干の混乱で終わったようである。しかし、サッダームの亡霊は、イラクにおいて再び頭をもたげつつあるようだ。

 サッダームの独裁政治は国民に苦難を強い、米国との対立は、長年にわたる制裁の苦しみをもたらした。しかしイラク政権が打倒された戦争のあとの多くの国民の状況は、サッダーム時代よりも辛い部分も少なくないようだ。最近になって首都バグダードをはじめとして治安の改善こそみられるものの、状況はいまだに厳しい。インフレ率が70%に達する中、失業率も60-70%と高い状況にある。サッダーム時代は、人々にいきわたっていた配給は、現在では約6割程度に行われているのみで、配給のアイテム数も早々に削減される見込みである。スンニー派とシーア派の混在地域からは、いずれかがほとんど排斥され、宗派対立による攻撃の標的が見当たらなくなったことが治安の改善に寄与しているが、かつてのような宗派共存の回復は夢の状況である。

 普通のイラク人にとってみれば、為政者が誰であるかよりも、自らの生活が安定することが重要である。このような中で、サッダーム時代を懐かしむ声はいまだに大きい。というよりも、サッダーム時代の圧政記憶よりが薄れた分、その声は大きくなっているといえるのかもしれない。

 イラクの混乱の大きな原因は、米国が敵視した「サッダーム的なもの」の排除にあった。それは、「サッダーム的」な象徴であった強力な中央集権、軍、治安・諜報機関の解体やテクノクラートの根幹をなすバアス党員の排除であった。しかしそれは、力のない中央集権、治安を維持できないイラク人治安部隊、能力の低い行政府をもたらし、排除された層による抵抗活動を招いた。

 ところが、最近では、「サッダーム的なもの」の復活が見られる。バアス党排斥法見直し法案こそ国会で止まったままではあるが、バアス党員の扱いに関する議論は、かつてと逆の流れを構成している。マーリキー政権が主要な政策を実施できず、閣僚ののべ半数近くが辞任・ボイコットする中で、政府は1年にわたり政界再編を目論んできたが、成功していない。そのような中で、イラク国民リスト、ファディーラ党、サドル勢力が政治対話を開始した。イスラーム党やクルド勢力の間でも新たな協調が見られている。二つのグループを糾合している大義名分は「イラクの統一」に他ならず、彼らの動きは、イラク連邦制に抵抗する運動でもある。イラクは、独立時より北イラクを含めて「国家への帰属意識」が薄かった。あるいは、地方の部族と中央政府の力のせめぎ合いの歴史であった。サッダームは、石油の富と治安機関を用い、あるいは外国との戦争を通じたナショナリズムの高揚によって、イラクの統一を実質的に最も大きく推進させた指導者である。

 米国は、スンニー派地域における部族自治組織「覚醒評議会」がアル=カーイダに抵抗し、治安の回復に貢献していると強調している。治安回復の主たる原因は、米軍の掃討作戦とサドル勢力の停戦で、スンニー派地域の治安の改善状況は限定的である一方で、覚醒評議会は新たな民兵台頭にほかならず、今後宗派対立を激化させる不安定要因になるのではないかとの懸念が、イラク政府内からも続出している。忠誠を誓う部族を積極的に登用する手法は、サッダームが得意とした手法であるのみならず、サッダーム時代に力を有した人材の復活も見られている。この「覚醒評議会」の代表的な指導者の一人でバグダードで最も力を有するアブー・アービドは、元バアス党の軍将校であり、バアス党排斥法案見直し等の政府の枠組みの外で、バアス党員の復活が成し遂げられている。

 サッダームが死亡して、かつての支持者を中心に、彼が美化されている傾向は強い。しかし、サッダーム政権の功罪のうち、「功」の部分が再度強調され、あるいはかつて国を担った人々が、新たな波に乗り始めている様子も見られている。

 本年こそ、イラクの安定が成し遂げられることを祈りつつ。

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