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ブラックウォーター

治安警護を受託している民間軍事会社(PSC)のブラックウォーター社員が、バグダードでも人通りの多いニスール広場で殺傷事件を起こした。ブラックウォーター社は、イラクにおいて米国政府等と契約を結び、大使館員の警護等に従事してきたとされるが、今回の事件では、過剰防衛がイラクの民間人11名殺害につながったとされ、殺害時のビデオ映像も残っていると報道されている。

この事件に対し、イラク政府は強く反発し、マーリキー首相は、彼らの行為は「犯罪」であると断言した。イラク政府は、暫定的に米大使館関係者の「グリーンゾーン」からの外出禁止、ブラックウォーター社の免許取り消し等を主張した。しかし、米政府にとって民間軍事会社が必要であるとの主張もあり、結局、米・イラク合同調査委員会の設置に引き続き、ブラックウォーター社は活動を限定的に再開させた。

この問題は、単に「警備会社がやりすぎた」以上の問題をはらんでいる。そもそもブラックウォーター社を代表格とするPSCは、日本でいうところの警備会社とはかけ離れており、米軍特殊部隊あがりの「傭兵」であり、米軍の治安作戦の一翼を担ってきたとされる。イラクの治安状況に鑑みれば、日本の政府やマスコミもPSCを活用していることは不思議ではないかもしれないが、それ以上に、同社のHPには、掃討作戦に参加していることも明記されている。 さらに、PSCの傲慢なやり方はイラク人の反感を買っているとされている。2004年3月にブラックウォーター社の「復興を請け負っている民間人」4名が、ファッルージャにおいて惨殺されたが、その際に彼らが乗っていたのは、重武装の装甲車であったことを想起すべきであろう。

洋書「Blackwater」の著者であるジェレミー・スカーヒル氏によれば、ブラックウォーターは恒常的に無差別に発砲し、残されているテープからは、イラク人を射撃訓練の標的にすらしている様子がうかがえるとのことである。彼らはある意味で、アフガン戦争並びにイラク戦争の最大の勝者であり、イラクの場合には、CPAのガーナー文民行政官の警護代金として、実に2700万ドルを受け取っているのである。

PSCの人々は、正規の部隊ではないから、軍規は適用されない。また、米軍統治時代の政令がいまだに有効であるために、イラク国内法からも訴追を免除される特権を有している。つまり、誰も裁くことができない武装兵なのだ。このような特権を利用し、ブラックウォーター社が武器を米国から不正に持ち出し、イラクに持ち込んだという疑惑も存在する。そもそも、米軍管轄下に置かれているバグダードの空港は民間用と軍事用に分かれており、軍事用の入国審査は極めてルーズであり、武器を密輸しようとすれば、容易にできるはずである。

しかしながら、彼らを必要とする背景もしっかりと存在している。並外れた経験と知識を有する武装勢力は、治安の悪化したイラクにおいて、特定の人物の命を守るには、不可欠である。それがたとえ、前述の指摘のように、逆にイラクを混乱する要素となっているとしても。そのような無法者が跋扈する環境は、複雑な問題を提起しているのである。 米軍によれば、PSCは交戦規程(ROE)を順守しているとのことであるが、軍規にとらわれず、ただちに発砲するような部隊は使い勝手がいいのかもしれない。また、イラク戦争後、ブラックウォーターだけで30人の犠牲者を出している由であるが、それは可哀そうな「民間人」の被害者であり、米軍兵の死者には数えられない。この点でも、米政府にとっては都合がよいことになるのだろう。

民間軍事会社は、効率がよく(かつて、米軍は殺傷効率という概念を使っていたが、正にPSCの多くにはこの意味での効率が当てはまるのかもしれない)、部隊を送るよりも安価で、命も安いとみなされているのかもしれない。伝統的な戦争ではなく、テロという非対称的な脅威に対処するにも、都合がよいのかもしれない。

宗派対立が激しく、且つ中央政府に信頼が置けないイラクにおいて、命を守るために自らの属する宗派内の民兵を支援することは悪で、特定の要人を守るために無差別に発砲すると言われるPSCを雇うことは、仕方がないことになっている。さらには、英国では、PKOやPKFに自国の部隊ではなく、傭兵を金銭で雇って派遣するという議論までなされ始めていると聞いている。近代国家は、暴力を独占することにより、権威を得てきた。また、暴力を独占すべきと考えるからこそ、テロリストを受け入れられなかったはずなのに、そこには矛盾が存在するように思われれならない。我々の時代は、これだけおかしくなってしまった時代なのかもしれない。

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