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総理の中東訪問

4月28日から5月3日まで、安倍総理が中東諸国を歴訪した。首脳外交の成果は、必ずしも瞬時の効果をもたらすものではなく、評価を急ぐべきではないかもしれないが、小生なりのとりあえずの評価は次の通りである。今回の訪問は決して絵になる外交ではなく、報道される部分も多くはなかったようだが、それにもかかわらず一定の評価を与えられるべきと考えたので、敢えてこのブログで取り上げた。

総論

安倍総理の中東訪問は、これまでの日本の歴代総理の対中東首脳外交と比較しても高く評価されるべきと思われた。中東は国際的にも重要な地域であるが、日本の首脳による資源外交は他国と比較しても出遅れた感がある中で、具体的な施策を持って中東を訪問したことは、評価されるべきである。

その一方で、経済産業省主導と思われる今回の振り付けから脱し、今後は、オール・ジャパンで対中東産油国外交を展開していくこと、産油国と米国にとり重要なイラン・イラク問題に明確な日本の政策が示されなかったことは、課題として残った。

首脳の資源外交

石油をはじめとするエネルギーの価格が高騰する中で、石油・ガス資源が集中する中東諸国は日本にとり重要な国であることは改めて指摘するまでもない。また、第一次石油ショック直後から、中東諸国に対する石油依存度を下げるといい続けてきたにもかかわらず、依存度は逆に上昇していることに鑑みれば、脱中東よりも中東産油国といかに緊密な関係を築くかを考える方が現実的である。

このような中で、安倍総理は訪問先に、定番のサウジアラビアとエジプトというアラブの大国に加えて、小国ながらも資源大国であり、日本に対する石油並びにガスの供給国として重要なクウェート、アラブ首長国連邦およびカタルを選択した。日本の首脳がほぼ通りすぎるこれらの国を訪問したことは評価されるべきであろう。

具体的施策

航空自衛隊部隊を受け入れているクウェートへの謝意表明、サウジアラビアにおける重層的関係の構築方針表明、エジプト等での中東和平およびイラク問題の意見交換等、定番のアジェンダに加え、やはり特徴的であったのは、湾岸産油国に対する具体的提案であろう。

サウジアラビアに対する沖縄の石油備蓄施設貸与提案は、日本の資源外交に資するのみならず、脆弱なアジアの石油市場の安定への貢献とサウジアラビアの東アジアにおける橋頭堡確保という多面的な側面を有する提案である。アラビア石油の開発利権延長のためにサウジアラビアに何を差し出すかといった議論から、やっと抜け出た感がある。アラブ首長国連邦のアブ・ダビ首長国では、JBICの融資をアブ・ダビ石油公社(ADNOC)に対して行うことが提案された由。日本にとっては、主として途上国向けのODAという制約があり、産油国のように、日本がODAを利用して貢献できる余地があり、戦略的にも重要だが、豊かなゆえに支援できず、外交上の重要なツールである経済支援を行い得ない国があった。しかし、今回の融資は政治的な決断として評価すべきであろう。特に、ADNOCはバランス・シートを後悔していないために、民間金融機関が融資しにくい会社であり、相手側も一定の評価を行うであろう。

また、アラブ首長国連邦およびカタルで経済合同委員会を、それぞれ再開・新規開催することを合意したことも重要である。湾岸産油国では、しばしば官僚機構の整備が遅れており、真のニーズを開拓することに手間がかかる。しかしながら、定期的に開催される経済合同委員会のような枠組みは、双方のニーズの掘り起こしに有効であろう。

このような具体的で且つ日本側のイニシアティヴに基づく施策は、日本の産油国外交に欠けていた部分であり、他の多くの国が産油国外交を積極化する中で出遅れた日本のエネルギー政策の柱を築く端緒になりえるものと考えられる。たとえば、一昨年、昨年と行われた小泉前総理の中東訪問の際には、中東の大国を訪問し、日本の対中東政策を説明したうえで、中東和平等の問題への日本の関与を説明してお土産を与えるという形式の外交であったが、今回の安倍総理の中東訪問は、前総理の訪問と比較しても、より突っ込んだ積極的外交であったと評価できよう。

課題

今次中東訪問の背後には、経済産業省が見え隠れしているようだ。必ずしも官僚主導の外交を否定するわけではないし、総理個人がこのように具体的な施策を立案できるとも思わないが、今次訪問の成果と課題は、縦割りの行政の中に落とすのではなく、エネルギー外交が重要である以上、オール・ジャパンでフォローアップする体制を構築することを急ぐべきであろう。特に、自主開発原油の拡張を掲げた経済産業省の方針の達成が困難になりつつあるように見える中で、単に失敗のしりぬぐい外交にまとまるのではなく、今後の中期的な日本の関与構築へとつなげるものになる必要があるように思われる。「重層的な関係」という言葉は昨年5月に経済産業省が取りまとめたエネルギー戦略で強調された結論の一つであり、また経済合同委員会も経済産業省の取り仕切るところである。しかしながら、重層的な関係を築き、各国のニーズをしっかりと受け止めるためには、省庁の壁を超えた対応が必要である。合同委員会も経済分野に限ることがないように拡大していくべきであろう。

湾岸の小国との関係はやっと緒に就いたばかりであり、今後の首脳外交の継続が望まれる。また、話が具体的であるからこそ、時期的目標を定めて明確な成果を出せるよう努力する必要がある。湾岸の小国に対しては特に、日本側のイニシアティヴが不可欠である。

他方で、より大きなマルチの枠組みの中東和平やイラク問題、イラン問題については、総理訪問にしては見えにくい部分もあったのではないか。イラク戦争時の日本の支援等を通じて、日本に不信感を抱いたアラブ大衆も多い中で、中東の安定に向けて日本がいかなるイニシアティヴをとれるかは重要であり、この欠けた部分について、今後日本の明確な立場を模索していく必要があるだろう。

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