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サドル勢力の閣僚辞任とイラク政局

サドル勢力の閣僚6名が辞任した。これは、サドル勢力の政権からの離脱を意味しないが、その一方で、報道されているように、マーリキー首相が米軍の撤退計画を明示しないことへの不満だけが理由ではないようである。

マーリキー首相の苦悩

現在のイラク政権を構成する与党会派「統一イラク同盟」の中でマーリキー首相を支えるのは、出身政党の「ダアワ党」と「サドル勢力」で、サドル勢力の支持なしには政権は不安定な状態に置かれる。他方で宗派対立激化のシーア派側の主役はサドル勢力で、米軍はしばしばサドル勢力掃討を主張してきた。このような板挟みの状況の中でマーリキー首相は、米軍増派を伴う大規模掃討作戦を前にサドル勢力に圧力をかけながら政界再編を行おうとした。つまり、安定した政権の樹立と武装勢力掃討を両立させることを目指したのであった。しかし、それは芳しい結果をもたらされなかった。

サドル勢力の思惑

このような中で米軍主導の掃討作戦が実施され、サドル勢力下の武装組織は地下に潜り、サドル勢力を率いるムクタダー・アッ=サドルもイランに身を潜めていると言われている。昨年、米軍がバグダード市内のサドル勢力掃討に動いた際、マーリキー首相が介入し、攻撃を停止させたが、今回は、サドル勢力の中の目立つ勢力については米軍に拘束される事態が見られるようになった。このような状況にストレスをためたサドル勢力は、連立を組むパートナーへの配慮よりも米国に屈したマーリキー首相に対し、閣僚辞任を通じて批判的な姿勢を示したものと考えられる。

統一イラク同盟内ではこれまで、主流派のダアワ党+サドル勢力と非主流派のイラク・イスラーム革命最高評議会(SCIRI)+ファディーラ党が権力闘争を行ってきた。サドル勢力がダアワ党支持を撤回すれば、イランと関係の深いSCIRIとファディーラ党が力を伸長させることとなり、これはマーリキー首相のみならず米国にとっても好ましくない。このことを計算に入れてサドル勢力は自派の主張を通すことができると考え、今回の閣僚辞任を決断したはずである。サドル勢力としては、武装闘争を控える姿勢を示しながらも、政権への影響力を維持しつつ自派の拡張を継続し、米軍の掃討作戦終了後には再び民兵組織を含めた勢力の活動を活発化させることをもくろんでいると思われる。それゆえ、閣僚を辞任させても、議員の辞職やマーリキー政権との明確な決別宣言を出さずに、政権を揺さぶっているのではないだろうか。

サドル勢力のアキレス腱

サドル勢力については、かねがね指示系統が弱く組織としての問題があると指摘されてきたが、その背景には、ムクタダーの指導力のなさと会派としての組織力のなさが背景にある。掃討作戦開始後、サドル勢力はバグダードではある程度組織的な動きを示し、武器を置き、地下に潜伏したほか、警察にも浸透して生き残りを図っているいるようだが、地方部では民兵が前面に出る状態が解消されていない地域もある。このような中で、4月前半からはサドル勢力内部の足並みの乱れが目立つようになった。7日には、ディワニーヤにおいて地下に潜伏しなかった民兵が米軍の集中的な攻撃を受けた。また、サドル勢力の閣僚2名がキルクークのアラブ人移住政策に同意したり、あるいはサドル勢力幹部の一部が米軍司令官と会食した一件が明るみに出た。この件では、サドル勢力として閣僚を辞任させることができず、マーリキー首相に更迭を求めていたとされる。

このような組織の団結の弱まりに加えて、米軍と歩みを共にするマーリキー政権に確固とした姿勢を示すことができないサドル勢力幹部に対するサドル勢力内部における不満の鬱積は、対処を必要としたはずである。武装闘争の再開に至らずとも、反米姿勢を新たにし、閣僚を全員辞任させるという荒療治を通じて、サドル勢力としての存在感と不満の解消および今後進むべき方向性を示そうとしたのではないだろうか。

イラク政権の求心力低下

サドル勢力の閣僚引き上げを通じてイラク政権の求心力は弱まることになるであろうし、サドル勢力自身、政権の脆弱さと自派の影響力を見越した行動をとったとみられるが、すでにイラク政権に対する信頼のなさは深刻なレベルにある。

18日に140名以上の死者が出たと言われるサドリーヤにおけるテロ事件は、サドル勢力の動向と密接に関係している。イラク政府軍が治安の維持をできない中で、サドリーヤはサドル勢力によって治安の維持が行われてきた。米軍とイラク軍による掃討作戦が実施されて、サドル勢力の民兵が地下に潜り、治安維持の責任を放棄したために、実質的に空白となった治安維持の間隙をついて、このような攻撃が行われたと住民に理解されている。

このような攻撃は、宗派対立をあおり、武装民兵組織を反米抵抗活動に引きずり込もうとするカーイダのような組織による可能性、警備が手薄になったためにスンニー派が行った可能性、あるいは可能性は低いが、サドル勢力の影響力を誇示するためにサドル勢力自身が行った可能性があり得る。いずれにせよ、このようなテロを抑制できない背景には、政府の無能が根本にあり、それにサドル勢力の動向が関係していると言えよう。

マーリキー首相による政界再編のイニシアティヴが功を奏さない中で、政局を見てとった反主流派や野党は、この状況を積極的に利用し、それがますます政権の求心力を失わせている。ファディーラ党が政権から離脱し、サドル勢力が微妙な動きを見せる一方で、アラーウィ元首相のイラク・リストは求心力を強め、一部のスンニー派やほかの野党勢力との結集の動きを見せている。このような動きに対し、在イラク米大使やクルド勢力はアラーウィ元首相と接触し、政権の混迷を煽っている。

キング・メーカーの役割を担ってきたクルド勢力は、政権が弱体する様子を見逃さず、石油法や係争地であるキルクークのアラブ人移住政策といったクルドの主張に有利に働く法案を政府に呑ませ、自らの利益を既成事実化しようとしている。これに対して、トルコが敏感に反応してクルドに圧力を強める遠因となっており、中央政府に対する信頼感のなさに起因する問題はますます混迷を深めている。

このように、混乱にもかかわらず政治家たちが自らの利益を最大化させようと画策している様子は、国民の政治不信、政府に対する信頼欠如の状況をますます煽っていると言わざるを得ない。イラクの出口は遠いようであり、このことは、マーリキー首相のみならず、ブッシュ政権をますます縛る方向に働くようである。

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