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米国の対イラク戦略

11日、ブッシュ大統領が、「イラク新政策」を発表しました。この新戦略に対するとりあえずの所見は以下の通りです。なお、本日発刊予定の読売、毎日、産経、日経各紙にも小生の卑見が掲載されるはずなので、ご参照ください。

ブッシュ大統領が会見においてイラク政策の失敗の責任を認めたことから、米国の対イラク政策が大きく転換したとの印象を受けた人もいるかもしれないが、その中身は新味を欠いている。昨年に発表されたベーカー=ハミルトンによるイラク研究グループ報告と比較しても、米軍駐留部隊撤退については時期を明言せずに後退し、イラクの段階的正常化プロセスについてはほとんど触れず、カギとなる隣国イランならびにシリアについては、関与政策ではなく圧力行使というまったく異なるものとなっている。

ラムズフェルド元国防長官が更迭決定後に述べたように、イラクに対処するためには、政治・治安・復興が同時並行的に実施される必要があるが、政治については具体論に乏しく、経済復興については、米国の発表した支援の行き先の半分以上は、地方復興チーム(PRT)および現地司令官の緊急対策費といった軍事色の強いものとなっている。

撤退を早期に実現するための21500名程度の増派が言及されたが、増派だけで問題の解決はない。米軍の集中的運用については、2003年夏の第三機甲師団による掃討作戦の成功例と昨年夏の増派された部隊によるバグダード掃討作戦の失敗が対比できよう。前者については、武装勢力という明確な相手に対し、市内の高い建物を破壊する等の徹底的掃討作戦を行い、その後、4000名を越える精鋭部隊をティクリートに駐留させたことにより、評価すべき成功がもたらされた。後者については、宗派・民族対立の中で適を特定するのが困難であったことに加え、イラク国内政治上の制約の下で、バグダードという大都市で軍事力の行使に制限があったために失敗に帰したと評価できるように思われる。この成功・失敗例を見ると、今回の増派の内、より大規模なバグダードにおける増派は、後者の失敗例に近いように思われてならない。増派が成功を約束するのではなく、戦略的目標と作戦の環境が重要であるようだ。

成功のカギは、イラク政府の決断にかかっているのかもしれない。マーリキー政権がこれまでに実施している掃討作戦は、主としてスンニー派武装勢力と呼ばれるものに対してであった。イラクの治安を回復するためには、宗派・民族に捉われず、民兵の武装解除を実現し、国民のイラク政府に対する信頼を回復する必要があるが、指導力の欠如を指摘されるマーリキー政権が、粘り強くこの努力を継続し、米軍としっかりした連携をとらない限り、成功はないかもしれない。

イランの関与については、より深刻かもしれない。シリア以上にイランは、イラクに対する影響力を保持している。イラク研究グループ報告が指摘するようにイランがイラクを安定する能力を持っているとは思わないが、イラクを不安定化するに十分な能力を有していると思う。このような中で、イランはイラク政策を検討する上で重要だが、ブッシュ大統領は、イランを関与させるのではなく、新たに空母部隊を派遣して圧力をかけつつ、イラクに悪影響をもたらさないよう圧力をかける手段を選択した。そもそも、イラクが安定すれば、イラク領内から米国がイランを攻撃するかもしれないとイランが考える限り、米国のイラクの安定に向けた政策にイランが協力するはずもなく、このような政策は誤りに思われる。

ブッシュ大統領の新イラク政策は、他力本願的な色彩が強いが、来年の大統領選挙の去就のみならず、冷戦以降の米国の対中東戦略の行方に大きな影響を与えかねない。この意味で、イラク政権の立場と米国の対イラク戦略の行方は、今後の国際社会を見る上で注目すべきであろう。

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