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大統領死刑確定

26日、イラク控訴審はサッダーム・フセインに対する死刑判決を支持し、これによって死刑が確定した。27日付ロンドン発行シャルク・ル=アウサト紙は要旨以下の通り伝えている。

イラク高等裁判所控訴審は、サッダーム処刑の判決を支持し、30日以内の処刑の可能性がある決定を下した。ラーイド・ジャウヒー裁判官・高等刑事裁判所大統領特別法廷報道官は、「控訴審は、サッダーム・フセイン、同人の異母弟バルザーン・アッ=ティクリーティ、アワード・アル=バンダルに対する死刑判決を支持する。共和国令により処刑の日が決定される場合、30日以内に処刑が実施される。もしもかかる共和国令が出されないとしても、30日以内の処刑が法により定められているため、それは必要ない。」と述べた。さらに控訴審は、タハ・ヤーシーン・ラマダーン元副大統領に対する終身刑を拒否し、より厳しい罰則を求めた。

「大統領」に対する死刑判決としては、アラブ世界では異例のことであり、米ホワイトハウス副報道官が言うように「民主化プロセスの一環」という政治的文脈からも、重要である。

サッダームはイラク国民の多くにとって恐怖の象徴であり、彼を「克服する」プロセスは、旧政権の呪縛から解かれることを意味する。政府にとっては、国民の信を得られない中で、無法者の象徴を法の下で裁くことにより、権威を得ることを意味する。

この死刑判決であるが、法律によれば、終身刑もしくは死刑の場合には、自動的に控訴審に送られ、審理の手続きが正当なものであったかが審議される。控訴審が差し戻さず、支持する場合には刑が確定し、30日以内に刑が執行されることになっている。

他方で、大統領評議会(大統領および二名の副大統領により構成される)の署名が死刑執行には必要で、この内、タラバーニー大統領は死刑命令書に署名をしないと表明してきた。これに対してアブドゥ・ル=メフディ副大統領は代理署名の意向を示し、議論をよんできた。ところが、今回の控訴審スポークスマンの発言では、大統領評議会の執行命令は不必要であるとなっている。

サッダームの処刑は、法的解釈の正当性については、専門から外れることもありわからないが、政治的判断の余地がないとすれば、そこには現政権にとっての利点と欠点があるようだ。

利点としては、サッダームを法的に粛々と処刑することにより法治国家としての印象を与えると共に諸外国の死刑に対する批判を弱めることが出来、宗派・民族対立に焦点が当たる中で、スンニー派に対する刺激を不必要に拡大しないことが期待できよう。たとえば、控訴審のラマダーン元副大統領に対するより厳しい刑を求める判断が、もしも政治家により下されるならば、大きな物議を醸したであろう。

欠点としては、第一にタラバーニー大統領がクルド人指導者としての側面が上げられる。シーア派住民に対するドゥジェイルでの虐殺事件によるサッダーム処刑は、シーア派の溜飲を下げるかもしれないが、クルド人に対する虐殺が解明されず、感情的にも割り切れないかもしれず、シーア派世論が気になるところであろう。第二に政治的に利用できない欠点がある。大統領に対して死刑が行われなければ納得できないとの判断から国際裁判所を避けたとされる一方、政治的に裁判官を更迭する等の措置まで行われる中で、きわめて影響が強いサッダーム処刑が政治的にプラスに使えなければ、複雑であろう。可能であれば、クルド人虐殺事件に対する判決が下され、来年頭にも予測される次期内閣発足の見通しがついて政治的モメンタムが確保された時点で諸兄をしたいというのが本音ではないだろうか。

付記

28日には、ルバーイー安全保障担当顧問が数日内の死刑執行を明らかにし、その一方で法務次官が大統領の署名の必要性と控訴審による棄却後30日以降の処刑を強調しており、イラク側に混乱が見える。特に米国発の報道では、年内処刑が強調されているようであるが、現在は巡礼の時期であり、普通に考えれば、この間の処刑は好ましくないはずで、執行は来年になる可能性が高いようにも思われる。

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