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異文化との相互理解

カイロに滞在した際に、ジャパン・リターン・プログラム日本語サミットなるものにパネラーとして参加した。060919_17220001

このサミットは、日本語を学ぶ人たちがあるテーマについて日本語で語り合うというもので、カイロにおける会議では、エジプト、キルギスタン、カザフスタン、ブルガリア、中国、日本の代表がそれぞれ参加していた。キルギスタンの代表が、セーラームーンを見て、日本語を是非とも学びたくなったと言うのを聞いて、改めて日本文化の多様性を認識した。

「平和」を主張すると言うことは決して容易なことではないが、20代前半の彼らの主張はしっかりしたものであった。 日本の代表が、偏見から自由になって相互理解を深めようと主張し、ブルガリア代表は、日本で学んだ相手の立場を尊重するという姿勢の重要性を主張した。さらにカザフスタンの代表が、マスメディアによる報道の信頼性に疑問を呈した上で、人的交流を通じて直接自らの立場を伝える重要性を強調した。

それぞれに、外国語を学ぶ者の主張として、筋が通ったものであった。 彼らの主張に共通していたのは、相互理解と人的交流の重要性であった。そこでパネラーとして参加した私は、友人同士が理解することは容易だが、平和の実現に向けて人的交流と相互理解が必要だとするのであれば、敵を理解する態度を継続して維持することは可能か、彼らとの間で相互理解を現実のものとできるのか、と問題提起した。エジプト人の聴衆に向け、ブッシュ、ローマ法王、イスラエルをあなたたちは理解しようとする立場を継続できると問いただしたのであった。明確な答えはなかったが、参加者たちの主張は、ある程度真剣に受け止められたのではないかと思った。060919_16260001

さらに、コーディネーターを努めたNHK子供ニュースの元MC、池上彰さんが、「アンネの日記」がユダヤの悲劇を世界に広めたことを引用して何か言おうとしたところ、会場の誰も「アンネの日記」を知らないことに驚いていた。確かにシオニズムと対抗するエジプトでは、ユダヤの悲劇を伝え、シオニズムのPRに貢献した「アンネの日記」を知らなくても不思議はない。

この議論の中でユダヤの悲劇が強調され、顔色が変わった者たちもいた。そこで私は、アラブ世界のPRは十分かと聴衆に問うた。エジプトにはノーベル賞受賞者の有名なナギーブ・マフフーズがいるが、彼の著わしたパレスチナ人の悲劇に関する「ハイファの男たち」は、イスラエルはもとより、日本や西欧社会で果たして広く読まれている著作であろうか、とした上で、「アンネの日記」がユダヤ人の悲劇を世界に広め、同情を集めたのであれば、なぜアラブ世界は「ハイファの男たち」を世界に広めて、パレスチナ人の悲劇を広めて理解を得ようとしないのか、と聞いたのであった。

私はかねてより、米国における9.11同時多発テロが血のにおいと阿鼻叫喚を伴っており、5年を経た今も遺族の苦しみを世界に発信し続けているのに、アフガニスタンやイラクにおける戦争は、なぜ血のにおいを伴わないあたかもクリーンな戦争と見られているのかに疑問を感じていた。国連の対イラク制裁で、薬が不足して死んでいく者たち、戦争で被害に遭った民間人、戦後、米兵に謝って撃ち殺された者たちの血の代償は、平和への問題提起となり得ないのか。

命の重さが等しいなどと青臭い議論をするつもりはないが、単にイスラエルとアラブの相互理解のみならず、世界からの情報であふれているかに見える日本の対アラブ理解も、問題を孕んでいるのではないであろうか。

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コメント

いつも興味深く拝見しております。
私は世界情勢のことなど考えたこともない普通のOLでしたが、ひょんな事からアラブ世界に興味を持ち、このブログにたどりつきました。
まずは、「ハイファの男」読んでみたいと思います。

投稿: 黒ねこ | 2006年9月21日 (木) 12時27分

早速のコメント、ありがとうございます。

ハイファの男たち、とても凄惨なないようですが、その描写も興味深いと思います。

私は文学には疎い方ですが、お奨めいたします。

投稿: 大野 | 2006年9月21日 (木) 12時59分

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